【壊れたセットの中に佇む厳つい男が暴れながら――】
――こらワレぇ! ワシのことを ナメとるんかぁ!?
ウー:い、一体どうしたの!? サー:ユゴーが舞台の上で暴れているんだけど…… 観客:ザワザワザワザワ……
【アナウンス】 ご来場のみなさまに申し上げます。 本日のユゴー公演の第2部で用意されているセットにトラブルがあり、予定していた詩のプログラムは中止することになりました。詩作品の紹介はまた日を改めて行うことにします。 大変申し訳ありませんが、 本公演はこれで終了したいと思います。
観客:Boooooooooooo!! サー:これはマズいよ!!第1部でエロじじい扱いされてただでさえ苛立っている観客が暴徒と化してしまう!!!! 観客:ウオオオオオオオオ!! ウー:や、ヤバいわ。もう暴れだす寸前よ!!
黙らんかいワレら!! ワシがいちばん悲しんどるんじゃ。 こんなの惨めすぎる。 レミゼすぎる。。。(しょんぼり
観客:シーーーーーーーーン。。。 ウー:さすがユゴー。彼が黙れと言えばお客さんはみんな黙る。彼が悲しんだら今度はみんなが悲しみだしたわ。 サー:、、、すごいエネルギーだ。だけどなんでこんなことになってしまったんだろう。ちゃんと詩を披露する予定だったのにセットにトラブルがあるなんて、いくらフランス人がテキトーな国民なのだとしてもこれは、、、。 観客:ザワザワザワザワ(殺気
シィ〜。 スズメバチの巣の真下で踊りまくるような真似はやめて。 トラブルの原因はこうよ。 たぶんこの舞台をセットしていた人物は冬の寒さのせいでカゼを引いてしまったの。 だけどもうすぐ『レ・ミゼラブル』の劇場映画が公開されるから、スッキリした気持ちで映画を観に行きたいその人は映画を観に行く前にこの舞台をつくってしまいたかったのよ。
なるほどね。 だからカゼのせいでちゃんと調べるはずだったユゴーの詩を読む時間がなくなってしまった。そして調べるより早く映画を観に行きたいがために舞台をセットする人はもう我慢できなくなってしまったんだ、、。 、、だからこの公演の第2部は中止せざるを得ない状況になってしまった!
ワシ涙目。 どういう事情じゃそれ、、。 レ・ミゼラブルとノートルダムの鐘の作者としか思われとらんワシがジャポーンに自分をアピールするチャンスじゃったのに、、、。 レミゼすぎる。。。(男泣き
観客:観客総泣き(全仏が泣いた!) ウー:なんというかつくづく日本人には詩人として縁のない詩人なのかもしれないわね。 サー:でも、いつか舞台をセットする人がまた舞台を用意してくれると思うから今はその日を待つことにしよう。 観客:パチパチパチパチ! ウー:あら。お客さんが今日はじめてサーぼぉに共感してくれたわよ? サー:ありがとう。ただ舞台の上のあの人だけは納得してくれそうにないんだけど、、、。
ユゴー:当たり前だろうこの小僧。ワシのこの悲しみをどこにぶつけてくれようかのぉ?(客席ガン見 ウー:(※逃げる準備をするウー) サー:(※身動きのとれないサー) 観客:ゴゴゴゴゴゴゴゴ…… サー:あxがjkdんfか、、あ、あn、あの、レ・ミゼラブルのワンシーンを読んでください!
観客:Yeahhhhhhhh!! 双子:(決死の)イエーーーイ!!
ワシ嬉しい。 そういうことなら 予定を変更して読もうではないか。 だが本編を読むような真似はせん。 これからミュージカルや映画でワシの作品の観客となってくれる人のためにネタバレになることはしとうない。 だからここはシンプルに、 レ・ミゼラブルの序文を読むだけにする。 あとはこれから良き観客となる人のために残しておく。
レ・ミゼラブルの冒頭 作者のことば 社会に法律と風習とによる処罰が存在し、それがこの文明のただなかに人為によって地獄をつくりあげ、神聖な運命を人間の不幸でもつれさせるかぎり――、またこの世紀の三つの問題、すなわち、プロレタリアであるために男が落伍し、飢えのために女が堕落し、闇夜のために子供がいじけるという三つの問題が解決されないかぎり、――また、ある地域で社会の窒息状態が生じる可能性のあるかぎり、――言葉をかえれば、そしてもっとひろい見方をすれば、この地上に無知と悲惨とがあるかぎり、このような性質の本もまた役に立たなくはないだろう。 オートヴィル・ハウス、1862年1月1日
観客:パチパチパチパチ!(拍手 サー:「神聖な運命を人間の不幸でもつれさせるかぎり」という言葉が意味するものは人間が人間に対して行う悪の行為。 ウー:ユゴーはそういう社会の法律と風習による処罰が生みだす悪を本(レ・ミゼラブル)の持つ力によってジャスティスしようとしたわけね。
現実も本の内容もそう単純ではないけれど、主人公のジャン・ヴァルジャンは飢えをしのぐために一度は罪を犯した。 この物語はそこから改心した主人公に芽生えた良心とその成長を描いたもの。大なり小なりそんな過ちはいつの時代のどんな場所の誰にだってあるだろうと思う。 さっきウーノがこれは他人事ではないって言ったけど、自分が社会の中で他の人と比べて惨めな立場で生まれ育ったら、誰だってジャンのような罪を犯す可能性がある。 だけどそこからもう一度立ち直って人生をやりなおしたり、誰かや何かのために生きることの意義を見つけることができれば、この作品は十分役に立っているものなのだとボクは思う。
誰にでも当てはまる「民衆」の立場から一度はどん底を味わったジャンが、目には目をってな具合に悪には悪をもって薄汚れた大人になるのではなく、善意によって生きることの尊さをユゴーは民衆であるみんなに伝えたかったのかもしれないわね。 そうやって人が人の善を目覚めさせあうことができれば、 この世は天国や楽園にもなり得るし、また逆にいえば地獄にもなる、、。
ユゴー:おいオマエら。調子こいてネタバレしたらマジでフランスから生きて返さんぞ。 あ? 双子:ずびばぜんでじだ!! ユゴー:しかし難儀なものだな、現代のジャーポンもワシほどの時代ではないにせよ、変化に激しい生活を余儀なくされておると聞く。 そんな時代だからこそ民衆ひとり一人がより優しく、賢く、正しく物事を判断できるようにならねば社会はよくはならんのではないか? ワシのように亡命させられるまで権力と戦うのは酷な話だが、周りの空気ばかり読んでそれに流されるだけでは世の中は良くならんぞ。
双子&観客:はいっ!! ユゴー:大きな権力に対して不平不満を言っても何も変わらん。他の誰かに愚痴をこぼしても誰も変わらん。 口を開いて空ばかり眺めていても金は降ってこん! そんなふうに時間を過ごすくらいなら、人間ひとり一人が自分で考え、行動しながら己の魂を成長させた方が世の中は早く変わる!! 不幸な人間に対して冷たいまなざしを向けるな!愛を生きる力に変えるのだ!! 双子&観客:Yeahhhhhhhh!!
じゃ、ワシ帰る。 死んでなお、 女とイチャイチャしたい衝動がおさまらん。 だってワシって生粋の――
双子&観客:Yeahhhhhhhh!! 双子&観客:パチパチパチパチ!! ウー:なんだかんだで九死に一生を得たわね、サーぼぉ。 サー:(あ〜、生まれ変わるならやっぱフランス人だよなぁ、、、)
結局、詩人としてのユゴーを知る機会は日本人にはお預けになっちゃったけど、それも彼の運命といえば運命なのかもしれないわね。
いや〜、それは誰かさんがテキトーな性格だからだけど、これでとにかくスッキリした気持ちで『レ・ミゼラブル』を鑑賞できるってわけだ!
観客:Bravoooooo!! 双子:ブラヴォー!! 双子&観客:パチパチパチパチ!! 観客:Bravoooooo!! 双子:ブラヴォー!!
【アナウンス】 以上を持ちまして、本日の上演を終了いたします。 お忘れ物などございませぬよう、よろしくお願いいたします。 次回のご来場も、 心よりお待ちしております。 本日はどうもありがとうございました。
いや〜、 本当にエネルギッシュなエロじじいだったわね。 ところでユゴーも言っていたんだけど、 すでにレミゼを観るポイントを押さえてあるっていうのは一体どういうことなの?
ヒントはジャンがパンを盗んで刑に課せられたことと、 ユゴーの亡命。 それ以上は言わない。
まぁいいわ、 とにかくレミゼを観るために日本に帰るわよ!!
ウー:そんなわけで、フランス空軍を相手におとり役を頼んだわ。 サー:、、マンマミーヤ、、、 ウー:あ、でもその前に三ツ星レストランのフルコースを食べたりルーヴル美術館に行ったり、お城巡りをしたいわ! サー:、、あぁ、こんなことならボクも肉食系になるべきだったよ、、、 、、レミゼすぎる、、、。