紹介劇『宮沢賢治』 《第2部》


世界の詩人を紹介するショータイムのコーナー。それが世界詩人劇場(in 日本公演)
詩人の世界観と人間性で綴られる詩の数々。それを紐解きやすくするための第2部、開幕!

第2部:『宮沢賢治の作品 〜理想郷を叶える授業』


    【舞台に黒ずくめの男が登場】


     大丈夫。
     東北の人たちは決して負けねぇ。

     そんなことより、
     こんな格好じゃぁ不審者と間違えられてしまう、、。


    【アナウンス】
     今日は宮沢賢治さんが今の日本で暮らす人たち寄せたい詩を紹介してくれるそうですよ。


     いや、、。
     そんなことは一言も言っていないんですが、、。

     ところで21世紀の日本はイーハトヴ(理想郷)の実現に近付いているのでしょうか?



    観客:・・・・・・・・・・・・

    ナビ:・・・・・・・・・・・・

     まさか遠ざかっているのですか!?



    観客(そういうわけではないけれど、、)

    ナビ(、、近付いているわけでもないのが現状です、、)

     これではいけません。
     教師の経験のあるわたしが理想郷を叶えるための一助になりましょう。


     短い時間ですがよろしくお願いいたします。



    双子観客パチパチパチパチ!(拍手

    ウー:思わぬカタチで賢治先生の詩の授業がはじまりそうよ。

    サー:劇場が学校になっちゃった。

     1/3時限目
     わたしが生前残した詩集『春と修羅』の序を読みます。


     心象スケッチの考え方の予習はもう済ませたようなので、次は実演による復習をして自分のものとして身に付ける番です。

     予習をして知識を得た今、読んだときに受け取る印象が大きく変わってくると思います。




     詩集 春と修羅の『序』より

     わたくしといふ現象は
     仮定された有機交流電燈の
     ひとつの青い照明です
     (あらゆる透明な幽霊の複合体)
     風景やみんなといっしょに
     せはしくせはしく明滅しながら
     いかにもたしかにともりつづける
     因果交流電燈の
     ひとつの青い照明です
     (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

     これらは二十二箇月の
     過去とかんずる方角から
     紙と鉱質インクをつらね
     (すべてわたくしと明滅し
      みんなが同時に感ずるもの)
     ここまでたもちつづけられた
     かげとひかりのひとくさりづつ
     そのとほりの心象スケッチです

     これらについて人や銀河や修羅や海胆は
     宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
     それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが
     それらも畢竟こころのひとつの風物です
     ただたしかに記録されたこれらのけしきは
     記録されたそのとほりのこのけしきで
     それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで
     ある程度まではみんなに共通いたします
    (すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
     みんなのおのおののなかのすべてですから)

     けれどもこれら新生代沖積世の
     巨大に明るい時間の集積のなかで
     正しくうつされた筈のこれらのことばが
     わづかその一点にも均しい明暗のうちに
       (あるいは修羅の十億年)
     すでにはやくもその組立や質を変じ
     しかもわたくしも印刷者も
     それを変らないとして感ずることは
     傾向としてはあり得ます
     けだしわれわれがわれわれの感官や
     風景や人物をかんずるやうに
     そしてただ共通に感ずるだけであるやうに
     記録や歴史 あるいは地史といふものも
     それのいろいろの論料(データ)といつしょに
    (因果の時空的制約のもとに)
     われわれがかんじているのに過ぎません
     おそらくこれから二千年もたつたころは
     それ相当のちがった地質学が流用され
     相当した証拠もまた次々過去から現出し
     みんなは二千年ぐらい前には
     青ぞらいっぱいの無色な孔雀が居たとおもひ
     新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層
     きらびやかな氷窒素のあたりから
     すてきな化石を発掘したり
     あるいは白堊紀砂岩の層面に
     透明な人類の巨大な足跡を
     発見するかもしれません

     すべてこれらの命題は
     心象や時間それ自身の性質として
     第四次延長のなかで主張されます





    観客パチパチパチパチ!

    ウー:予習をしていなかったら間違いなく何を言っているのかわからなかったわね。

    サー:うん。予習をしても賢治の心象を明確に説明するのは難しいけれど、キーツの言っていた消極的受容力に近い発想なんじゃないかな。

    ウー:ここんところを少しでも理解しておけば、賢治先生の他のどの作品も違う詩人の詩もググッと読みやすくなると思うわ。

     詩人や音楽愛好家として芸術を、農業者としての土や雲を愛する心をベースにしながら宗教家と科学者的な目線で作品を書くのが彼の特徴かもしれない。



    賢治:この国はもっともっと地域による地産地消の農業文化と地産地創の芸術文化が盛んになってくれるといいなぁ、、。

    ウーお金をあんまり使わずに済む生活を目指しながら、畑を耕して食生活を維持する。
     その中で文学や芸術やスポーツやエンターテイメント活動を小さなコミュニティの中でも充実させていくライフスタイルを社会の中に広げていくこと
    が理想郷への近道のような気がするわ。

    サー:あらゆるエネルギーを都市部の一カ所に集中させる資本主義のシステムはもう古いのかも。

    観客、、ザワザワザワ、、、

    賢治:日本人になら必ず新しい未来をつくることができると思います。

     正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じていくことであります。
     新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にあるのです。

    ウー:星と星がぶつかりあわずに惑星を描いているように、ワタシたちの生活もみんなで自分にできることをエネルギーに変えながら調和できるといいわね。

    賢治:この世界を我が物のように感じ、その痛みをみんなで我が物にできれば、人や自然が共存しながら暮らしていける未来にとって、何が必要で何が必要ではないのかを未然に察知することができるはず。
     人にはあらかじめ、優しさを強さに変えられるだけの感覚が備わっているのですから。

     2/3時限目
     そんな人になってほしいという願いを込めて、『雨ニモマケズ』を読みます。




     雨ニモマケズ

     十一月三日

     雨ニモマケズ
     風ニモマケズ
     雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
     丈夫ナカラダヲモチ
     慾ハナク
     決シテ瞋ラズ
     イツモシヅカニワラッテヰル
     一日ニ玄米四合ト
     味噌ト少シノ野菜ヲタベ
     アラユルコトヲ
     ジブンヲカンジョウニ入レズニ
     ヨクミキキシワカリ
     ソシテワスレズ
     野原ノ松ノ林ノノ
     小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
     東ニ病気ノコドモアレバ
     行ッテ看病シテヤリ
     西ニツカレタ母アレバ
     行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
     南ニ死ニサウナ人アレバ
     行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
     北ニケンクヮヤソショウガアレバ
     ツマラナイカラヤメロトイヒ
     ヒドリノトキハナミダヲナガシ
     サムサノナツハオロオロアルキ
     ミンナニデクノボートヨバレ
     ホメラレモセズ
     クニモサレズ
     サウイフモノニ
     ワタシハナリタイ





    双子観客Yeahhhhhhhh!!

    サー:もう説明は不要だね。

    双子観客パチパチパチパチ!!

    ウー:えぇ。アタシたちもいつかそんな人になりたいわ。

     自己犠牲の精神から生まれるユナニミスム(一つの精神、魂の共有)的な世界観をみんなで共有してほしい。

     賢治の願いはそこにあるような気がする。

     彼の作品から銀河系のイメージが湧いてくるのは科学的な意味だけじゃなく、そんな宇宙的な感情を抱いてほしいということが伝わってくるからなのかもしれない。



    賢治:わたしたちに必要なものは銀河をつつむ透明な意志。巨きな力と熱なのです。

     世界全体を優しさで包み込む気持ちが、個人から世界全体を幸福に導いてくれるのです

     それでは理想郷を叶えるための授業はこれまでにしておきます。

    双子観客えぇえぇぇ〜!!

    ウー:舞台を去るには早すぎるわ。もうちょっと喋っていてもいいのよ。

    賢治:その心配はありません。この舞台に登場してくる詩人たちの描いてきたことはわたしのそれとよく似ています。

     すでに平和な世界を実現するための授業ははじまっていたのですから。

    双子(世界詩人劇場ってそんな目的があったんですか、、。)

     3/3時限目
     その鍵を担っている過去、現在、そして未来の詩人に向けて。


     いつかわたしたちの視界でモノゴトを見られるようになれる日本人に向けて読みます。




     詩は裸身にて

     詩は裸身にて理論の至り得ぬ堺を探り来る。
     そのこと決死のわざなり。
     イデオロギー下に詩をなすは、
     直観粗雑お理論に屈したるなり。

    ―――――――――――――――――――――――――

     新たな詩人
     嵐から雲から光から
     新たな透明なエネルギーを得て
     人と地球にとるべき形を暗示せよ

     古い十界の図式まで
     科学がいまだに行きつかず




     哲学者のハイデッガーは、「詩人は存在の運命を告知するものである」と言いました。世界と人間との運命を、あらかじめ人々に告げて知らせるものだという意味です。

     その力を活かし、この日本を理想郷に近付けるために役立ててください。

     そして詩に興味や感心のない方も、今自分にできることをしながらまだ閉ざしている心の目を開いてください。


     いつの日か、
     億の巨匠が並んで生まれ、
     互いに相犯さない世界は必ず来ます!


     
     そうそう。
     アナタの志は確かに受け継いだから、
     後のことはアタシたちに任せてちょうだい。

     大変なときだけど、
     日本人は負けたりしないわ。


     雨ニモマケズ、
     風ニモマケズ、

     そういうものに、
     わたしたちはなることができます。


     今日教えた授業を、
     この国の復興のために役立ててください。

     それではこれにて失礼します。

     東北の山でも歩きながら帰ろうっと。



    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!

    双子観客パチパチパチパチ!!

    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!


終演後:『おまけ』


    【アナウンス】
     以上を持ちまして、本日の上演を終了いたします。
     お忘れ物などございませぬよう、よろしくお願いいたします。

     次回のご来場も、
     心よりお待ちしております。
     本日はどうもありがとうございました。


     アタシたち、
     そんな風になれるのかしら?


     なれるさ
     それをこれからみんなで、
     証明していくべきなんだ。

     長い目で見て、
     自分たちにやれることからコツコツやっていけば、
     賢治が夢に描いたイーハトヴの理想郷は必ず実現する。


     そのときが日本の復興と呼べるのなら、

     夢を叶えたいわね。




    サー:、、ウーノォ、、その前にボクらは自分の生活をなんとかしないとマズいよ!

    ウー:その点は大丈夫。賢治の遺言をコピペしておいたから。そんなことより子供を残せなかったり、仕事がお金にならないくらいで生き方を変えたら承知しないわよ。

    サー、、そんなことって、、。

     雨ニモマケズ、
     風ニモマケズ、

     ソウイウモノニ、
     ワタシモ、
     ナリタイデス。








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