紹介劇『ジョン・キーツ』 《第2部》

世界の詩人を紹介するショータイムのコーナー。それが世界詩人劇場(in イギリス公演)
詩人の世界観と人間性で綴られる詩の数々。それを紐解きやすくするための第2部、開幕!

第2部:『キーツの作品 〜その薄幸の閃光』


    【舞台に儚げな男が登場】


     ・・・・・・・・・・・・


    【アナウンス】
     あ、あの。
     なんかしゃべってください。


     フフッ(遠い目

     ぼくの名前はジョン・キーツ。

     イギリスのジョンといえばジョン・レノンだけど、キーツの方も忘れないでね〜(遠い目



    観客(なんか儚ぇ人だなぁ、、)

    ナビ(もっとなんか話してよ!)

     ・・・・・・・・・・・・



    観客:・・・・・・・・・・・・

    ナビ:・・・・・・・・・・・・


    劇場シーーーーーーーーン。

    (も、もう会場の空気がもたない。こうなった最後の手段としてあの2羽の絡みっぷりを利用するしかない。警備隊長にお願いして彼らの拘束を解いて自由にさせましょう。)



    警備:ガチャン!(解錠)

    ウー:あら?鳥かごの窓が開いたわ。

    サー:急にどうしたんだろう。ちょっと聞いてみるね。Excuse me――

    〜3分後〜

    サー:――なるほど。舞台に上がっているキーツ一人じゃ劇の進行が不可能だからボクらに力を貸してほしいそうだ。

    ウー:ようはいつも通りヤジって盛り上げればいいっていうわけね。これで首の皮一枚つながったわ。さぁて、それじゃぁキーツから作品を読んでもらえるように一肌脱ぎましょうか!

    サー:それで問題の劇場の空気は――


    劇場シーーーーーーーーン。


    双子(――なるほどね〜、、)

    ウー:あそこで頬杖付いてる人がキーツね。予想通りのキャラクターだわ。彼の作品にはどんな特徴があるの?

     キーツの詩はわかりやすい。
     象徴を駆使するけれど、その表現は具体的で素直だからね。

     華麗な美の表現を感覚的に描いている感じ
     短い人生の儚さとは対照的に作品は生命感に溢れる審美的で艶やかなものが多いんだ。そこに自分の思想を封じ込め、ひとつの哲学を覗かせるところが優れた詩人たる証拠さ。

     繊細な感性を持ったキーツの作品は人間の欲望や都会の喧騒を描くより、自然や恋愛に関する言語で構成されている。
     もっと長く生きていたらもっと興味深い作品を残せただろうに、非常に惜しい逸材だよ!


     サーぼぉ、
     そんなに大きな声でベタ褒めして一体どうしたの?


     こんな才能に満ち溢れた詩人が25年しか生きられなかったなんて、神はなんていたずらな真似をしたんだろう!

     あぁそうだ!きっとそのまま長生きしていたらシェイクスピアやワーズワースの業績なんて軽く超えちゃうから神さま的にめんどくさいことになって困っちゃうからなんだろうなぁ!!



    キーツ:、、、やっぱ君もそう思う?ぼくもそう思うんだ。肺病で早死にしちゃったからもうなんとも言えないんだけど〜(遠い目

    サー:(かかった!)

    観客ザワザワザワ!(しゃ、喋った!!)

    ウー:(やるわね。。。)

    キーツ:なんだか読みたい気分になってきたから読ませてもらうよ。

    『秋に寄せるうた』



     秋に寄せるうた

       1

     霧と 熟れたる 豊穣の季節よ、
     恵みあふれる太陽の 親しい友だちよ。
     茅のひさしに捲きついた葡萄づるには 重い房を
     どんなに垂れ下げようかと、おまえは太陽の語らいたくらむ。
     苔むした納屋の古木には 林檎をたわわに実らせ、
     すべての果物を その芯にまで熟れさせようとする。
     また ひょうたんを膨らまし、はしばみの皮を
     甘い仁で大きくし、そして蜜蜂たちには
     遅れ咲きの花を もっともっと開かせようとする。
     夏が蜜蜂の巣の密房に ねばねばと満ちていて、
     暖かい日々の終わることが ないだろうと思うまで。

       2

     誰が 収穫の時に しばしばおまえを見かけなかったであろう。
     ときおりおまえを あちこち捜したものなら、
     おまえが穀倉の床のうえで 吹き過ぎる風に髪をゆるやかになぶらせて、
     ただぼんやりと座っているのを 見かけたものだ。
     あるいは 半ば刈りとられた畝で 罌粟の匂いに眠気を催し、
     いっぽう おまえの鎌は 次の麦株と絡まる
     花々を惜しんで ぐっすりと寝入っている。
     またときおり おまえは 落穂拾いの人のように、
     荷をのせた頭をしっかりと保ち 川むこうに向けたりする。
     あるいは 辛抱づよい目差しで 果物搾りから落ちる
     最後の滴りを いつまでもいつまでも見守っている。

       3

     春の歌ごえは どこへ行ったのであろう。ああ、いまはどこに。
     そのことを思うてはならぬ、おまえには おまえの歌がある――
     たなびく雲は 紅く沈まんとする夕陽に映え、
     薔薇いろに 切株の畑を染めるとき、
     ちいさな羽虫のむれは かわやなぎの枝のなかで
     かろやかな風が立ち またやんだりするままに、
     高く運ばれ あるいは低く降りたりしながら 悲しげにうたう。
     生長した仔羊が むこうの丘から 啼きつつやってくる。
     垣根のこおろぎが鳴く。そしていま 菜園に
     駒鳥が 美しいソプラノで囀る。
     また空には 南に帰る燕のむれが囀っている。





    観客パチパチパチパチ!(拍手

    サー:これは原詩(原作の詩。翻訳や改作などの、もとになる詩)を載せて朗読付きで読んだらもっとよくなるだろうね。

    ウー:えぇ。キーツの得意なオード(崇高な主題を、多く人や事物などに呼びかける形式で歌う、自由形式の叙情詩。頌歌(しょうか))は形式の中にある韻の響きが大切だもん。日本語だけではなんだか惜しい気がするわ。

     でもよかったわよ、キーツ!

     フフッ。

     この作品はね、ぼくが死んじゃう2年前。
     人生の中で詩作がいちばん絶好調だった1819年に書いたんだよ。

     南英の古都ウィンチェスターで書いたっけな〜。
     懐かしいなぁ。。。(遠い目


     じゃ、ぼくはこのへんで、、、。



    双子観客えぇえぇええ!?

    サー:ちょ、ちょっと待って!これじゃぁなんか短すぎる。200年前は早死にしちゃったから、ここでは長いことやっていいんですよ!?

     ・・・・・・・・・・。

     そんなこと言われてもな〜。
     あんまり人が多いところとか得意じゃないからさ。


     じゃ、じゃぁあと1つ。
     1篇だけでいいから!


     ・・・・・・・・・・。

     いいよ。
     いいけどかなり長い作品だけどいい?



    ウー:どうぞどうぞ!

    キーツマジで超長いけど本当にいいの?

    サー:えぇ、もうそれくらいのことをしないと収集付かないよ。

    キーツ:ふ〜ん。じゃぁ『睡眠と詩』を読んじゃうよ。準備をするからちょっと待ってて。

     『睡眠と詩』といえばキーツの処女詩集の中でも傑作と言われる作品ね。
     若きキーツの人生や芸術に対する考え方が刻まれた長編詩。その時代に流行っていた18世紀の作詩法を批判し、本当の詩人の機能と目的の意思表示を試みた代表作のひとつ


     あぁ、歴史的にいえばキーツは『ロマン派』『ロマン主義』というカテゴリーに分類されている。ロマンチックっていう言葉には何かどこか現実逃避のような捉え方をされるところもあるのだけれど、彼の文章の本質はそれとはまったく違う。

     これはどんな夢を追いかける人にも言えるのだけど、何かに対して本気になって取り組み続ければそれは必ず誰かや何かのためにつながっていくものだって思う。

     キーツの場合は自分の芸術や創作に対するプロセスを明確にした上で、象徴を駆使して物事の本質を探求し続けた。そうやって自分で選んだ道を自分の手で舗装しながら進もうとしていたんだけど、奇しくも病によって中断されてしまったよね。


     でもそういう姿勢や考え方は今の人にも見習うべきものや学ぶべきものがあるわ。人生に解答を求めながら、人生の中にある矛盾との真っ向勝負をしていく真の詩人たち、終わりなき負け戦を続けていく愛すべき人道主義者たちからね。


     もういいかな〜。

     タイトルはこんなだけど、
     読んでいる途中で寝ないでね。

     寝ずに読むためのコツは、
     言葉のカタチを想像しながら声に出して読むこと。
     わからないところは流しても口にすること。

     試してみて。
     じゃぁいくよ〜。

    『睡眠と詩』




     睡眠と詩

     夏のそよ吹く風よりも やさしいものは何であるか。
     開いた花のうえにしばしとどまり、
     木蔭から木蔭へとこころよりげに唸りたてる
     かわいい蜜蜂よりも 心たのしいものは何であろうか。
     誰ひとりとして知る人もない 緑の島に花咲く
     麝香薔薇よりも ひそやかなものは何であろうか。
     谷間の鬱蒼とした茂みよりも 健康なものは、
     小夜鳴鳥の巣よりも ひそやかなものは、
     コーデリアの面差しよりも 和やかなものは、
     高尚なロマンスよりも 夢多いものは。
     眠りよ、おまえでなくて何であろう。やさしく目をふさいでくれるものよ!
     やさしい子守歌をささやくものよ!
     幸せな枕辺を 軽やかにさまようものよ!
     雛げしの蕾や、しだれ柳の枝をうな垂れさせるものよ!
     美しい女の髪の毛を 静かにもつれさせるものよ!
     もっとも幸せな聴き手よ! 新しい日の出にきらきらと輝き
     打ち眺める瞳を よろこびで活き活きとさせるために
     朝が おまえを祝福する。

     しかし おまえよりも 思いも及ばぬほど尊いものは何であろうか。
     山の木になる実よりも まだ新鮮なものは。
     白鳥の翼よりも、鳩よりも、遠くにかすむ鷲よりも
     珍しく、美しく、穏やかな、堂々たるものは何であろうか。
     それは 何であろう。また それを何に較べようか。
     それには栄光があるけれど、ほかには何も 栄光を分かち得るものはない。
     その思いは 荘厳で 甘く 神聖なのだ、
     すべての俗物や 愚物をはらいのけるほど。
     それは 時どき 恐ろしい雷鳴のように訪れてくる。
     それはまた 大地のなかから 低い地鳴りのように這いあがってくる。
     あるいはまた 時どき むなしい空気のなかで呼吸する
     不思議なもののあらゆる秘密を
     やさしく囁くこともある。
     それから わたしたちは 窺うようにあたりを見まわす、
     たぶん 光の姿や 空気の形を見たり、
     かすかに聞こえる讃美歌から 静かに浮かぶものを捉えるために。
     また 生命の終わるとき わたしたちの名のうえに
     高くかかげて冠せられる 月桂樹の輪を見たりするために。
     時おり それは うた声に栄光を与え、
     <喜べ! 喜べ!>という言葉が 嬉々とする心からこみ上げてきて
     その響きが すべての物の創造主に達し、
     熱烈な囁きのなかに 消えてゆくのだ。
     赤々と燃える壮麗な太陽や あらゆる雲のかたちを 一度でも眺め、
     偉大な神の姿を はっきりと悟り
     心が清らかになるのを感じた人なら、わたしが
     何を言っているのかわかり、そして 生命が燃えるのを感じるに違いない。
     だからわたしは その人が すぐれた稟質から見出だすものを
     告げることによって、かれの魂を侮辱しようとは思わない。

     おお 詩よ! わたしは そなたの広大な天の
     光栄ある民ではないが、そなたのために
     ペンを執るのだ――だが わたしの周りをおおう
     燃えるような輝きを感じ そなた自身の言葉が
     ひびいてくるのが聞こえるまで、
     どこかの山の頂上にのぼって 跪くべきであろうか。
     おお 詩よ! わたしは そなたの広大な天の
     光栄ある民ではないが、そなたのために
     ペンを握るのだ。けれども、このように熱情をこめて祈りをあげるから、
     そなたの聖殿かた 澄んだ空気をあたえておくれ、
     花咲く月桂樹のそよ風に うっとりと
     酔わんばかりの大気を。わたしが華麗な死をとげ、
     若々しい魂が 朝の光にのって、新しく捧げられた
     生贄のように 偉大なアポロへと達することが
     できるように。あるいはまた、わたしが この圧倒されるような
     甘美な詩的霊感を身に占め得るならば、それはわたしに あらゆる場所で
     美しい幻想をもたらすだろう。みどりふかい木蔭は
     楽園と化し――木の葉や 野の草花、あるいは
     森のなかや泉で興じる 妖精たちの遊びや、
     眠っている一人の乙女のために 静かさを保つ
     木蔭についての 美しいことばを写したり、
     そのことが どうして どこから生じたのかを、わたしたちが
     いつも 不思議に思うにちがいないような 奇妙な影響をうけた
     数多くの詩を写したりする 汲めどもつきせぬ 一冊の書物とも
     化するであろう。また 想像が 炉辺をうろつき、
     おそらく 荘厳で美しい眺望が
     現れるだろう。わたしは 侘しい山間を流れる
     清らかなミアンダー川のように 幸福な静寂のなかを
     さまよい歩くのだ。そしてわたしは 荘厳な
     木蔭の場所と、魔法のちいさな洞穴と、
     花々の縞模様の着物をいっぱいに拡げた 緑の丘を
     そこに見出だし、その美しさに心を戦かせながら
     すべての許されるかぎりのもの、わたしたち人間の
     感覚に適うすべてのものを この手帳に書き留める。
     そこで この広い世界の出来事を、力強い巨人のように
     把握し、両肩に誇らかに 翼の生えるのを見て
     魂の不滅性を発見するまで、
     わたしは 自分の魂をいためつけたい。

     とどまって 考えよ。人生は たった一日。
     木の梢から 危なげに落ちかかっている
     砕けやすい露の玉だ。あるいは モントモレンシの
     絶壁の滝つぼに突進する 小舟のなかの哀れなインディアンの
     仮の眠りだ。なぜそんなに 悲しく嘆くのか。
     人生は まだ咲かない 薔薇の花の希望である。
     また 常に変化する物語を読むことだ。
     乙女のヴェールを 軽やかにめくり上げることだ。
     清らかな夏の空を 飛びまわる白鳩だ。
     悲しみや不安もなく、楡のよくしなる枝に
     またがって 笑いさざめく学童だ。

     ああ 詩のために自己を砕く 十年の歳月を わたしは
     欲しい。そうすれば わたしの魂が自己に命じた使命を
     達成することができるかもしれない。
     そこでわたしは いま遠いところから見ている
     国々を通りすぎ、その清らかな泉を
     絶えず味わえるだろう。はじめわたしは 花神フローラや
     老いた牧神の国土を 通りすぎるだろう。草のなかに
     眠り、赤い林檎や 野苺をたべ、
     空想が見つめる おのおのの悦楽を選ぶであろう。
     蔭ふかい所では 汚れなき妖精たちをとらえ
     恥じらってそむける顔から 甘美なくちづけを求め、――
     指を弄び、白い肩に唇が痛むほど接吻して
     かわいらしく 縮みあがらせてやるだろう。
     そこでついに 仲睦まじくなったら、
     ともに 人生の美わしい物語を読もう。
     ある妖精は 優しい白鳩に どうすれば憩いの場所に
     涼風を爽やかに吹きおくることができるかを 教えこむだろう。
     もうひとりの妖精は すばやい足どりであゆみながら、
     頭のうえに 緑の掛衣をなびかせ、
     花々や木々に微笑みながら 目まぐるしく
     変わりながらも 自由に踊りをおどるだろう。
     また別の妖精は 花咲くアーモンドや
     豊かに茂る月桂樹の間をくぐり抜け、わたしを誘い出し、
     やがて 緑葉の茂る世界の奥秘で、
     わたしたちは 静寂のうちに休らえる、
     真珠貝のなかで背中をまるめる 二つの珠玉のように。

     いったい このような喜びに 別れを告げることができようか。
     そうだ、わたしは このような喜びを 人間の苦悶や
     心の争いがそこにある もっと高貴な人生に
     高めねばならぬ。見よ! 遥かに遠く
     馬車と 乳白色のたてがみの駿馬とが
     青く峨々たる山をおおう雲のうえを 駈けってゆくのが見える――
     御者は 重々しい恐怖にふるえ 風を見つめている。
     そしていま 無数の足音が 巨大な雲の峰に軽く震え、
     また 車輪の音もかろやかに 馬車と駿馬は
     輝く太陽に そのまわりを銀いろに縁どられ、
     爽やかな大空を 舞いおりてくる。
     かれらは 大きく旋回しながら 下界へおりてくる。
     そしていま 緑の丘の斜面におり立って、風にゆらめく樹木の
     幹のあいだで そよ風にふかれて休んでいるのが見える。
     御者は 不思議な身振りで 木々や山々に
     話しかけた。するとやがて 喜びと 神秘と 恐怖の姿が
     現われ出で 大きな樫の木の木蔭を
     通りすぎてゆく。その姿は 急ごうとすると
     消え去るような音楽を ひびかせる。
     見よ! いかに囁き、高らかに笑い、微笑み、そして泣いているかを。
     あるものは 手をあげ 口調も厳しくわめき、
     またあるものは 両手で 顔を耳までかくして
     泣いている。青春の盛りの あるものは
     喜び勇んで 暗闇のなかを通り抜けてゆく。
     あるものは 後ろを振りむき、またあるものは 天を見上げている。
     このように 幾千のものが 数多くの違った姿で 軽やかに
     通りすぎてゆく。――いまし 乙女たちは かわいい
     輪をつくり、艶やかな髪の毛を絡ませたり、
     羽根のようにひろげたりして 踊ってゆく。
     この馬車の御者は ほとんどこわごわと
     身を乗り出して、耳を傾けているようだった。
     ああ わたしは 熱情に顔をあからめて
     御者が書くものを すべて読み取りたいと思う。
     まぼろしは みな消えてしまった――
     あの車も天の光に消え去り、それにかわって
     現実に対する意識が 烈しい勢いでやってきた。
     それは あたかも泥流のように わたしの魂を
     押し流して 無に到らしめるであろう。しかし
     わたしは あらゆる疑惑に闘いをいどみ、あの同じ車と
     あの車のたどった 不思議な旅の思いを
     つないでいたい。

     現代の人間の力では、
     高遠な想像力は 昔のように自由に飛びまわることができないほど
     かくも世界が 狭くなったのであろうか。
     想像力の駿馬を用意して、天の光に向かって
     前足で躍りあがり、雲のうえで神秘な行いを
     為し遂げることは できないものであろうか。それとも
     想像力はまだすべて わたしたちに啓示していないのだろうか。
     空気が澄明なところから 新しく芽を吹く蕾の
     かすかな息に至るまで、あるいは ジョーヴ神の太い眉根の
     造りから 四月の牧歌のやわらかな緑に至るまで。
     この英国の島にも 想像力の祭壇が輝いたことがあった。
     調和音を声高に奏でる あの熱心な合唱隊を
     凌ぎ得るものがあろうか。それは 惑星のように大きく、
     回転する音楽の 力強い自我に調和させ、
     そして 目もくらむばかりの 眩しい空のあいだを
     惑星のように 永久にぐるぐる回転している。
     まったく、この時代には 詩の女神たちはほとんど
     飽き飽きするほど 誉れに満ちていた。声高らかに歌い、
     波打つ髪の毛を滑らかにするよりほかには、何の惑いもなかったのだ。

     これらの事実は すべて忘れてよいものだろうか。そうだ、
     虚飾や粗野なもので 支離滅裂にされて、
     この英国のために 偉大な詩神アポロは 顔を赤らめた。
     アポロの栄光を理解しない者が 賢者だと
     思われたこともあった。幼な子のような力で手綱を引っぱり、
     揺れる木馬にまたがって それを天馬ペガサスだと
     思い込んでいた。なんとこれは 不幸せな連中だったことか!
     天上の風は吹き荒れ、大海は荒々しい波のうねりを打たせても――
     それでも その音を感じなかった。青空は
     永遠の胸をひらき、夏の夜露は 朝を美しくするために
     珠玉となった。美は 目覚めていたのだ!
     どうしておまえたちは 目をさまさなかったのか。
     しかもおまえたちは 未知の自然美にはまったく無感覚だった、――
     つまらぬ定規や 下劣なコンパスで線を引かれた
     かび臭い法則に執着したのだ。それゆえ
     おまえたちは 愚かな詩人たちに 滑らかにしたり
     はめ込んだり 削り合わせたりする術を教え込んだ。
     ヤコブの知恵の杖のように その詩までが
     規則ずくめで 辻つまが合わされた。その仕事は安易だった。
     千人の職人たちが 詩の仮面を装った。
     なんと罰あたりで 神を恐れない連中だ!
     おまえたちは 輝く詩神アポロの面目をつぶしておきながら
     それを知らなかったのだ、――そればかりか、かれらは
     薄っぺらな看板や 一つ覚えのボワローの名前を 大きく
     張り出した みすぼらしい ぼろぼろの旗を
     高く掲げながら、歩きまわったのだ!

     ああ わたしたちの快い丘を
     さまよい歩くことを務めにする 詩の女神たちよ!
     そなたたちが集めた詩の尊厳に
     限りなき尊厳をささげるために、わたしは この汚れた英国では
     そなたたちの神聖な名を この俗物たちの近くで
     繰り返すことができない。かれらの恥ずべき行為が
     そなたたちを驚かせなかっただろうか。わたしたちの 昔変わらぬテムズ河の嘆きが
     そなたたちを喜ばせただろうか。妙なるエイヴォン河のほとりを
     悲しみに沈み 涙に濡れてさまよい歩かなかっただろうか。
     あるいは そなたたちは 月桂樹がもはや育たない
     この国土に すっかり別れを告げたのか。
     それとも 青春を誇らかに歌い終え 死んでしまった
     孤独な魂の詩人たちを よろこび迎えるために
     踏みとどまっていたのか。たぶん そういうこともあっただろう。
     けれども この悲しい時代のことは 忘れてしまおう。
     いまはもっと 美しい季節なのだ。そなたたちは
     わたしたちのうえに 豊かな祝福を吹き込み、新しい花の輪を
     飾ってくれた。だから 甘美な歌声は あちこちから
     聞こえてくる、――あるものは 白鳥の漆黒のくちばしによって
     湖のなかの水晶のような
     住まいから 揺り動かされた。あるものは 暖かな
     山間に 静かに巣ごもり 羊歯の生い茂る薮のなかから
     笛をならす。美しい音楽が この地上にいきいきと流れ
     そなたたちは幸せとなり 愉快になるだろう。

     これらの新しい歌声は 疑うまでもない。しかも まこと
     わたしたちは その詩歌の活力から 奇妙な雷鳴を耳にした。
     それは確かに 威厳から生じ、甘美なものと力強いものとが
     入り混じっている。しかし 明らかに真実なことは
     その詩の主題が 醜悪な棒にすぎず、大海を波立たせる
     詩人ポリフィメスだということだ。
     光の限りない露が 詩であり、それが最高の力をもつのだ。
     それは おのれの右腕のうえに頭をおいて まどろむ勇者だ。
     その瞼の ふくれ上がったふくらみこそが
     千人の忠実な手兵を従わせ、そうして
     もっとも穏やかな力で 支配しているのだ。
     しかし 力だけでは たとえ詩の女神から生まれたものでも
     落ちた天使も同然だ。裂けた樹木 暗闇
     うじ虫 経帷子 墓石などは それを
     喜ぶのだ。というのは 力は 人生の毬や
     荊を育てているからだ。詩は人間の
     苦悩を和らげ その思想を高め上げる友だという
     大きな目的を 忘れているからだ。

     しかも嬉しいのは、パフォスの町に生える 美しい
     天人花が 苦い雑草のなかから その優しい
     首を 空にもたげ、新しく芽吹く緑とともに
     あたりの空間を 静かに沈黙させていることだ。
     もっとも優しい小鳥たちは みな そこに
     愉しい風よけを見出だし、心もかるく羽搏きながら
     木蔭を這いまわり、ちいさな盃形の草花を摘んでは 歌をうたう。
     それから 天人花の優しい幹に 息苦しくなるほど
     まつわりついた 茨草を取り除いてやろう。わたしたちがこの世から
     去って やがて後に生まれる仔鹿たちを
     野の草花が生い茂る 青々とした芝生に
     導いてやろう。そこでは 恋人が
     膝を折りまげるよりほかに 乱暴なことはなにもさせず、
     閉じた書物に凭れかかる人の 静かな
     顔つきよりも 険しいものは 何もないようにしよう。
     ふたつの山に挟まれた 草深い山間よりも
     すこしでも騒がしいものはなくそう。喜ばしい夢に祝福あれ!
     想像力は いつもそうあったように もっとも
     美しい迷路に 入ってゆくだろう。
     そして もっとも人の心を慰めるものを
     素直にうたう人が 詩人の王者と見なされるのだ。
     どうか 死ぬまでに この喜びを 豊かな実りとしたいものだ。

     わたしが生意気を言っていると 誰かが
     言うのではないだろうか。すぐに浴びせられり恥辱を避け、
     自分の愚かな顔をかくすことが 遥かに賢明な策だと。
     あるいは 泣く子は 恐ろしい雷の落ちるまえに
     うやうやしく頭を下げるべきだと。どうしてだ!
     もしわたしが 自分の身を隠すとするならば
     それは 詩の神殿 ポエジーの光のなかであろう。
     もし死に倒れるとしたら ポプラの木蔭の
     静かな土のしたに わたしはどうしても眠りたい。
     墳墓のうえの草の葉は 滑らかに刈り取られ、
     愛情のこもった記念碑が 彫り刻まれることだろう。
     だが、失望よ 去れ! 悲惨な破滅よ 去れ!
     高貴な目的を得ようと渇望し、いつも飢えている
     人々は 失望とか破滅を知らないだろう。
     遥かにひろがる知識の天稟に あまり恵まれなくとも
     構うまい。また 人間の変動する思想を
     あちこちに吹きつける 烈しい風の変化を
     知らなくとも 構うまい。偉大な奉仕をする理性が
     人間の魂の薄暗い神秘から はっきりした
     思想をえり分けないとしても 構うまい。
     しかも わたしのまえには 巨大な思想がつねに伸び、
     そこから自由を拾い集め、さらにまた
     詩の目的と目標を 眺めてきたのだ。
     それは全く 自明の理なのだ。一年が
     四つの季節からなるように――白雲にまで聳える
     古い聖堂の塔上の 巨大な十字架のように
     明々白々だ。それゆえに わたしは
     あえて考えたことを言おうとして
     瞼がまばたきをするようならば、
     不具の良い見本であり 臆病者と言われるだろう。
     ああ! それならば むしろ狂人のように あの絶壁のうえを
     素足で走らせておくれ。温かい太陽が
     わたしのディダラスの羽根を溶かし
     痙攣させ 真っ逆さまに転落させるがよい!
     しかし とどまっておくれ! 内なる良心が 躊躇して
     いましばらく冷静にせよと 命じる。
     数多くの小島を点在させる 縹渺とした大海が
     眼前の厳かにひろがっている。その広大な海を
     隅々まであるくには どれだけの骨折り!
     どれだけの歳月! どんな苦しい混乱があるだろう!
     ああ、それはどんな仕事だろう! 膝をかがめ わたしは
     今までのことばを 撤回することはできない――
     いや できない! できない!

     甘美なくつろぎを求めて より謙虚な
     思いにふけり、穏やかに書き始められたこの未熟な詩を
     このあたりで、終わりにしよう。
     ちょうど今 あらゆる混乱が 胸から消え失せた。
     詩の栄誉ある道を 歩みやすく滑らかにしてくれる
     友人の援助に わたしは心をこめて感謝する。
     また お互いの美点を育てる 友情と親愛とに感謝する。
     考えるよりもさきに 愉しいソネットを
     頭のなかに入れ込む 心からの理解力。
     ある韻律が浮かびあがってくるときの 沈黙。
     それが沸き上がってきたときの 愉しい騒動。
     その使命は 確かに明日は 果たされねばならぬ――
     あの隠れた住まいから 高価な本を借りたり
     またつぎに出会ったとき、その本の周りに
     集まるのも たぶん同じ務めのためだ。
     わたしは 無造作には書けないのだ。つがいの鳩のように
     この部屋のまわりを 優しい微風がそよそよとふき、
     風が優しく吹きながれるのを はじめて感覚で捉えたときの
     愉しい日の さまざまな悦楽が思い出されるから。
     とび跳ねる馬に 肩をかがめてまたがる
     優雅な乙女たちも このような風とともにやってくる。
     無頓着だけれど 堂々として――柔らかなまるい指は
     華麗な捲毛をおし分けている、――そして あの二人の
     瞳が合い アリアドネの顔を紅らめさせた時の戦車から、
     すばしこく飛び下りたバッカスの跳躍も同じことだ。
     こうして わたしは 画帳をひらくとき
     愉快なことばが つぎつぎと思い浮かんでくる。

     こうしたものは 続々と湧いてくる穏やかな心象に
     つねに 先駆けをなすものだ。
     燈心草のなかに隠れて 首をゆり動かす白鳥。
     灌木の繁みから飛び立つ紅ひわ。
     薔薇の花を巣にして 金の羽根をひろげ
     あたかも あまりの愉しさに 身が痛むかのように
     実を震わせる黄いろい蝶――もっと もっと
     わたしは すべての悦楽を 気ままに愉しみたい。
     けれども 罌粟の冠をつけた
     静かな睡眠を わたしは忘れてはならぬと思う。
     なぜなら もしこれらの詩句に 価値あるものがあるとすれば
     いくらかは その睡眠のおかげなのだ、――こうして、
     寝椅子のうえに寝そべって あの愉しい
     日々を追憶しはじめるとき、友だちの
     騒々しい声は いま 甘美な静寂に変わってゆく。
     それは 快楽の聖殿の鍵をあずかる
     詩人の家だった。その家のあちこちに
     過ぎ去った時代の 歌詠みたちの
     輝かしい肖像――冷静で荘厳な面もちの
     半身像が 顔を見合わせて微笑んでいた。明るい未来というものに
     あこがれの名声を信じる者は 幸いなるかな!
     葡萄の葉が 芳香を放って折り茂なかを、
     軽やかに跳ねたり 指をのばしたりして
     豊かに色づいた林檎を 半獣神たちが
     狙っている。そこには 縞模様のある
     大理石の殿堂がそびえ立ち、
     芝生のうえを 美しい妖精の群れが近づいてくる。
     そのなかのもっとも美しい妖精が 白い手を
     眩しく光る朝の陽にかざしている。妖精の姉と妹が
     子供たちの軽快な足音が聞こえてくるまで
     そのしなやかな指をまげて 耳にあてている。
     またあるものは 露のような笛の
     魅惑的な音色に じっと聞きほれている。
     ごらん、もう一つの絵では、妖精たちが
     ダイアナの臆病な手足を いとしげに拭いている。――
     青いマントの襞が 水際で
     びしゃびしゃと跳ね、水晶の水玉とともに
     優しく揺れている。それはちょうど 大洋が
     広大に膨れ上がった滑らかな海面を 岩礁に静かに打ち寄せ、
     それからゆらゆら揺れる海草を ふたたび
     真っ直ぐにし、いま うねりの海のなかで
     海の泡立ちにも損なわれずに 立っているようだ。
     サッフォの優しい顔は そこで 見るものもなく
     なかば微笑んでいた。それはちょうど
     考えあぐんだため その瞬間 険しい表情が消え去り、
     彼女を ただ独りにしてしまったかのように。

     アルフレッド大王もまた 不安そうに 情けない眼差しで
     悩みと苦しみの世の嘆き声に いつまでも
     耳を傾けているかのようだった。またコスチウスコは 忌わしい受難に
     やつれ果て――まったく打ち捨てられているかのようだった。

     ペトラルカは 緑の木蔭から身をのり出し、
     ラウラの光景に驚いている。その目を
     彼女の美しい顔から そらすことはできない。いとも幸いなるかな!
     なぜなら かれらのうえには
     翼の自由なひろがりと ポエジーの顔が
     輝いているからだ。その玉座から
     ラウラは わたしには言葉にできぬものを見おろしていた。
     わたしがどこにいたかという 観念そのものが
     睡眠を遠ざけるかもしれない。しかし それ以上に
     わたしの胸のなかの 炎を燃やす思想が
     つぎつぎに湧いてきた。それで 眠れぬ夜でさえ
     朝の光が わたしを驚かせたのだ。
     清々しく 喜びと愉しみに満ちて 起き上がり、
     その日から この詩を書きはじめようと
     決意した。されば どのようなものであれ
     父が子に対するように わたしはこの詩から離れよう。





    双子観客Yeahhhhhhhh!!

    キーツ:どうもありがとう。

    双子観客パチパチパチパチ!!

    キーツ:どうも。

    ウー:これは大作ね。例え言っていることの意味がわからなくても、詩作の仕事に対する大きな決意や「人生とはこうあるべきだ!」っていう気持ちが伝わってくるわ。

     あぁ。それを自分のやりたいことや人生に置き換えて読んでいけば、これはキーツ本人や詩というジャンルに限らず、何かを一生懸命にがんばろうとしている人が読めば勇気や可能性を与えるような気持ちにさせてくれるはず。


     
     そうやって現実の中にロマンの輝きを探し続けながら希望を求ていく若々しさがキーツの紡ぎだす言葉の魅力なのかもしれないわね。


     じゃ、ぼくはこのへんで帰るね〜。

     あと、
     人間いつ死ぬかわからないからさ、
     自分のやりたいことがあるのなら真剣にやってみる。
     自分に正直で夢見がちな人は損しがちだけど、
     そんな生き方もアリだと思うよ。

     そんな感じでロマン溢れる人に幸あれ

     そしてぼくの詩を飛ばし読みした人には薄幸あれ
     な〜んてね(遠い目

     それじゃぁね〜。



    双子観客ありがとぉ!

    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!

    双子観客パチパチパチパチ!!

    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!


終演後:『おまけ』


    【アナウンス】
     以上を持ちまして、本日の上演を終了いたします。
     お忘れ物などございませぬよう、よろしくお願いいたします。

     次回のご来場も、
     心よりお待ちしております。
     本日はどうもありがとうございました。


     よかったよかった!

     アタシたちの活躍のおかげでイギリスのストーリー劇場を出禁にならずに済んだわ。それどころか今度から顔パスで通れるようになっちゃった!これで経費削減につながったわよ〜♪


     あれはボクの機転のおかげなんだからね。
     レディーはなんだかんだで現金というか現実的だなぁ。

     現金や現実的といえば最初はキーツに対して医者になった方がいい言っていたわりにはずいぶん考え方が変わったところ、ボクはとっても見直した!


     ふん。
     詩人の生き様はそこらのロックンローラーよりもロックしているからカッコいいなって思っただけよ。

     それにね、
     アンタのやり方はもうお見通し。

     そんな言い方したってアタシがマンユーを応援することなんて万が一にもありえませんから!


     そんなこと言わないでマンユーを応援してよ!!
     ブックメーカー(イギリスの賭け屋)でマンユー勝利に遠征費の半分くらいつぎ込んじゃったんだか――

     ――あ。。。




    ウー:貴重な仕事の予算を賭け事なんかに費やしていたのかキサマ。。。

    サー:・・・・・・・・・・・・

    ウー:イギリスではサー(Sir)というネームがナイトや准男爵の名前に冠する敬称として付けられるけれど、アンタにそれは似合わないわねぇサーぼぉ?

    サー:クソッ、今日はせっかくいいとこ見せたのに結局このオチか。。。天才というのはいつの時代も薄命に――


    ウー――うるせぇ!!
    ◀【ゼロ距離射程の直接フリーキック

    サーオワタァアァァ!







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