紹介劇『ゲーテ』 《第2部》


世界の詩人を紹介するショータイムのコーナー。それが世界詩人劇場(in ドイツ公演)
詩人の世界観と人間性で綴られる詩の数々。それを紐解きやすくするための第2部、開幕!

第2部:『ゲーテの作品 〜疾風怒濤の巨人観』


    【挿入曲】
     ベートーヴェン:『運命』

     舞台に男が登場


    諸君、
    少し騒がしいぞ。

    静かにしたまえ!!



    ウー観客・・・・・・!?

    我が名はゲーテ。

    詩人のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテである!!



     ・・・なんて、宮廷オーラ丸出しだったからベートーヴェンに嫌われたのであろうか。
     あの若造の性格にも問題があったのだが、あの日の過ちを見直して今日は少々砕けたカタチで失敬するとしよう。

     では改めて自己紹介をする。

     わたしの名前はゲーテ。
     詩人のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテである!!



    ウー観客:(あんま変わってねぇ〜。。)

     皆、
     わたしの映画は見たか?

     ・・・・・・・・


     見てくれたのであろうか!?



    ウー観客イ、
    Yeahhhhhhhh!!

     よろしい。
     では話を進める。

     正直わたしはあの作品を見てこう思った。

     わたしの文学作品に関する描写が少なかったのではないか!?

     と。
     あの映画においてわたしが文学的に納得のいく活躍を見せたのは草原における朗読のシーンのみで、それ以外は――



    サー:ただいまぁ。もうはじまっちゃった? 最初の方、見逃しちゃったけど、どんな展開になったのかな。。。

    ウー:。。。まず舞台にゲーテ役の人が登場して、自分の映画について自分で話しはじめたの。それで最終的には映画を見た人も見てない人も、自分の詩を3つくらい紹介するから、それ見て今度は映画の『ファウスト』でも見ろって。。。

    サー:なんか強烈な人が来たんだ。。。

     ――以上で前置きを終了する!

     続いてわたしの詩を紹介する!

     ・・・・・・・・


     続いてわたしの――



    観客パチパチパチパチ!(拍手

    サー:(こういう人なの?)

    ウー:(そういうことなの!)

     ――では参る。

    『野ばら』




     野ばら

     子供が ばらを
     野ばらを見た
     みずみずしさに
     すぐ駈けよって
     うっとり ながめた
     ばら ばら 紅ばら
     野に咲くばら

     子供が「ばらよ
     折るぞ」といった
     ばらがいうには
     「記念に刺すわ
     だまってませんよ」
     ばら ばら 紅ばら
     野に咲くばら

     子供は かまわず
     野ばらを折った
     ばらは さからい
     刺したけれども
     ただ泣くばかり
     ばら ばら 紅ばら
     野に咲くばら




     ――以上である。

     ・・・・・・・・


     以上である!!



    観客パチパチパチパチ!(拍手

    サー:この作品はね、あのフリデリーケとの恋愛から生まれた名高い作品。彼女のことを捨てなければならなかったゲーテの心情が歌われているんだ。

    ウー:子供というのは恋愛初心者のゲーテのことで、ばらはフリデリーケのことなのかしら。解釈の仕方は人それぞれなのだけど、こういう表現の仕方を象徴っていうのよね。

    サー:そう。自分の心情を何かのモノゴトに置き換えて表現する。わかりやすく言うなら自分の心に特別なフィルターを張って世界を見る感覚に近い。詩人というのは大なり小なりこの象徴使いでもあるのだけれど、その『特別なフィルター』というのはその人の個性や経験、環境に左右されるところが大きいから、その違いを楽しむのも色んな人の詩を見るときのコツなんだ。

     純粋になればなるほど象徴性を増すのも詩の特徴
     ある資料によれば、たとえばそれは松尾芭蕉においてきわめて格調の高い境地に立っていて、自然の風景をして人間内面の心象風景をおのずと語らしめる象徴性の高いものなの。
     人間存在は自然から出て、自然に還っていく。自然の中に融け込み、融け入り、ついには自然とひとつになってしまう。その境地こそ美的にも論理的にも最高の境地なのだという人もいる。


     ここで全部紹介することはできないのだけれど、ゲーテの詩からも日本人になじみ深い象徴的な表現方法がたくさんあるよね。特に恋愛感情と自然風景との象徴的な融合が得意な人なのだと思う。
     次もそういう詩を紹介してくれると嬉しいんだけど。。。


     そこの鳥。わたしに指図をするな。

     だがそうだな、求められるというのは嬉しいものだ。

     要求に応えるとしよう。

    『歌とかたち』




     歌とかたち

     ギリシャ人は粘度をこねて
     もののかたちをつくりあげ
     手でこしらえた自分の子を見て
     すっかりうっとりしてしまう

     それにしても ぼくたちの歓びは
     ユーフラテス河にとびこんで
     流れの元素のなかで
     あちこちただようことだ

     こうして心の火を消せば
     歌がひびき出すだろう
     詩人のきよらかな手が掬えば
     みずは水晶の玉となる





    観客パチパチパチパチ!(拍手

    サー:この詩はゲーテが『西東詩集』を書いている頃、ギリシャ古典に対する偏った考え方を克服しようという決意をあらわす作品なんだ。最後の2行はインドの神話にもとづく発想を吸収して、その制約によって芸術が見事なカタチで形象していくということを表現している。

    ウー:なるほどね〜。制約っていうと自由が奪われるように聞こえるけれど、文体や思考の形式が新しい自由を生むっていう考え方はよく理解できる。型ってものすごい自由でパワーあるわよ

    サー:ゲーテの詩が日本人にもなじみ深いものを感じるのは彼がヨーロッパだけじゃなくって、中東の思想を取り入れて、それを調和させようとしていたことにあるのかもしれない。

    ウー:最後の2行が特に印象深い作品ね。象徴を通して「詩人という存在」が見えるかのよう。タケルは小さい頃、この考え方に深く共感したものだわ。


     そこの鳥よ。
     さっきから何をこそこそと話しておるのだ。


     ゲーテの人が舞台から話しかけてきたわ!?

     ど、どうしよう。。。


     あ、あの、タケウマっていうボクらの飼い主の人があなたのことを大変尊敬しているっていうことを話していたんです。


     なるほど。

     気に入った!


     そんなおまえたちにとっておきの話をしてやろう。
     昔、ミダスという王がいた。その王は触れたものをどんな物でも金に変えることができた。ただの石ころも、木の枝も。食べ物や飲み物までもが金に変わってしまうのだ。
     しかし、食べ物や飲み物まで金になってしまうと、ミダス王は自分の空腹や喉を潤すことができなくなってしまった。

     不憫な奴だ。

     結局、四苦八苦した後にミダス王はその力を放棄することになるのだが、それを抜きにすればさきほどの話はそれに近いものがあるな。


    「詩人のきよらかな手が掬えば、みずは水晶の玉となる」とミダス王の話を象徴的にかけたわけだ。

     詩人の仕事はミダス王のように金を生む豊かさはもたらさないけれど、心の豊かさを生む錬金術師というか。。。どんな景色も宝石に変えてしまうような力があるっていうことですか?


     その通りだ。

     詩人という言葉は、ドイツと日本ではその意味がやや違う。

     いわゆる韻文の詩は現代詩において見慣れないことが多いが、韻は踏んでいなくても短い行に分けられ、その全体にリズムが感じられ、比較的短い言語芸術というものが、今の民衆たちの考える詩というものであろう。
     だから、中原中也や高村光太郎、宮沢賢治は多くのすぐれた散文も書きはしたが、その本領がリズミカルな短い言語芸術にあったために詩人と呼ばれるのがふさわしい。

     これに対しヨーロッパ、特にドイツでは、詩(ディヒテゥング)、詩人(ディヒター)には格別な意味がこめられている。

     ドイツでは高度の言語芸術作品が、一般の文芸(リテラトゥール)と区別して詩と呼ばれる。それは、密度、純度、完成度の高い1つの精神的世界をなしているからだ。
     あるいはこれを「言語を媒介にして、存在の本質を情調的に明らかにし、象徴的に存在を濃縮化するもの」(ヨハンネス・ブファイファー)と変換することもできる。

     だから言語によって作られる精神的世界は韻文と散文の形式的差異を問わないのだ。

     わかったか!?



    双子観客Yeahhhhhhhh!

    サー:詩人の持つ創造的な能力に自信を持っていたゲーテは、宇宙から自然、人にいたるありとあらゆるもの(万物)を包み込んで、調和させることができるのが詩人なのだと考えていた。

    ウー:疾風怒濤の精神を軸にして、この世の生の豊かさをすべて受け入れるような、そんな自由な精神と魂の活動を表現しようとしていたのよね。

    サー:ゲーテにとって自然は個別のパーツではなく、大きなひとつの総合的エネルギーのようなものだった。身のまわりにある草や石や木や雲、人や動物の生命を含め、空や星や宇宙までの全てがなにか「神的なもの」が生命をまとった衣だと考え、感じていた。この自然こそが彼の文学の対象だったんだ。

    ウー:あらゆることにおいてとことんスケールのでかい男だったのね。この大きな目線でモノゴトを捉える巨人観を持って人や社会、自然や時間を見つめることはこれからの人にとって大切になりそう。

     ちょっ・・・そんなに褒められたら照れるではないか!

     そ、そんなふうにおだてたって、最後の紹介を特別がんばる真似はせぬぞ!!



     断じてせぬんだからっ!!



    双子観客(最後の最後でツンデレるゲーテさんパネェっす。。。)

     では最後にもう1篇紹介して閉幕としよう。

     今の流れならこれが相応しい。

     では参る。

    『宇宙のいのち』




     宇宙のいのち

     塵は宇宙の一元素
     それをあなたは巧みに歌いこなした
     ハーフィズよ 恋びとのために
     あなたがうつくしい歌をうたうとき

     恋びとの敷居にある塵は
     回教主の寵臣がぬかずいた
     金襴の花模様のある
     あの絨毯にまさっている

     風がさっと吹いて 恋びとの戸口から
     むらがる埃を送ってくれば
     その匂いは麝香にまさり
     薔薇油より好ましい

     塵よ 塵は久しくわたしの身辺にない
     いつもどんよりした北国にわたしがいるからだ
     けれども 暑い南の国で
     わたしは塵をたっぷり浴びた

     だが もう久しく 愛の扉の
     蝶番は鳴りをひそめたままだ
     あらしの雨よ わたしを癒やせ
     わたしに濡れた青葉の匂いをかがせてくれ

     いま 雷が鳴りわたり
     空いちめんに稲妻が光れば
     風にとぶ あらあらしい塵は
     しめって地に落とされる

     すると たちまち生命がおどり出し
     きよらかな神秘の働きがおこり
     草は匂って みどりにかがやくのだ
     地上のさまざまな地域に





    双子パチパチパチパチ!!

    観客パチパチパチパチ!!


     もはやわたしには関係のないことだが、

     諸君らよ、

     疾風怒濤を巻き起こせ!

     生産の力あるもの。
     それのみが真である。

     だから何事にも臆することなく恋をして、仕事をして、友達を大切にするのだ。人間は人間らしく生きよ。

     では諸君。
     さらばだ!!

     Auf Wiedersehen!!



    双子観客うおおおおおおおおおぉおぉぉおお!!

    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!

    双子観客パチパチパチパチ!!

    観客Bravoooooo!!

    双子ブラヴォー!!


終演後:『おまけ』


    【アナウンス】
     以上を持ちまして、本日の上演を終了いたします。
     お忘れ物などございませぬよう、よろしくお願いいたします。

     次回のご来場も、
     心よりお待ちしております。
     本日はどうもありがとうございました。


     あ〜、激しい人だったわぁ。

     でも憎めない人だったわね。

     なんか元気になってきたからドイツのビールで一杯やって帰りましょうよ!!


     あ、いやぁ、それはちょっと。。。


     なによ。

     アタシと酒が飲めないっていうの!?

     もうあんなゲ○吐いたりしないわ。

     さっき言ってたゲーテの言葉で証明してあげる。。。

     ウーノ砲、
     疾風怒濤モード。
     スタンバイ。




    ウー

    観客ザワザワザワ・・・

    サーみんな逃げろぉ!!

    ウー

    観客キャァアァァアアァァァアアアァァァァアアアアア!!

    サー早まるなウーノ!

    ウー

    サーゲーテの言葉の意味を思い出せぇえぇぇ!!

     。。。あぁ、よかった。

     ウーノ、今の気持ちを忘れないでおくれ。。。

     できればこれからずっと(ぼそっ


     うん。

     あ、でも待って。今度は食べたり飲んだりしたせいで胃のガスがこう。。。



    ウー。。Ooooops!
    ◀【残り火ゲップ

    サーこれがボクの運命ですかぁあぁぁあああ!?







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